ザ・カレッジ・オペラハウス その2〔INTERVIEW〕

インタビューイー:本山秀毅(大阪音楽大学・大阪音楽大学短期大学部学長/ドリームコーラスコンサート演出・構成)
インタビュアー:大阪音楽大学ミュージックコミュニケーション専攻 金城陸、杉本隆成(4年)、浦井璃子(3年)

2021年11月27日(土)大阪音楽大学ザ・カレッジ・オペラハウスで開催されるドリームコーラスコンサートの聴きどころを伺いました。

左から杉本隆成、金城陸、浦井璃子、本山秀毅学長

●阪急沿線、100年以上の歴史がある3校が集結!
――今年のドリームコーラスコンサートの聴きどころをお聞かせください。
本山:関西学院グリークラブ、宝塚音楽学校、大阪音楽大学という3つの団体、どんな括りだかわかりますか?
――うーん…。
本山:コーラスのコンサートは巷にたくさんあるのですが、どんな団体が集まるかということだと思います。このコンサートは、阪急宝塚線ミュージック駅伝MOT!のイベントとして行うので、3校とも阪急沿線の大学を集めました。3校とも100年以上の歴史があって、音楽のユニークな取り組みをしている学校ですので、お互いの学校がやっていることを見たり聴いたりすることで、自分たちの活動に反映できればいいと思っています。そのようにして生み出されるものこのコンサートの聴きどころだと思います。
具体的には、宝塚音楽学校「すみれの花が咲く頃」と「僕が守る」という曲は、私が指揮することになりました。彼女たちのステージング(舞台上で動く)がある曲もあります。関西学院グリークラブは11月20日の全国大会(金賞、部門2位受賞)で披露した曲を出来立てほやほやの状態で演奏してくれる予定です。我々が演奏するのはジョン・ラターの「グローリア」という金管アンサンブルが伴奏に入ったかなり派手な曲です。
このドリームコーラスコンサートで、普段個々の団体で歌うのとは違う化学反応を起こしてくれたらと思っています。今回新型コロナウイルス感染症対策の事情で3校合同ステージができないのが残念なのですが、関西学院グリークラブと大阪音楽大学の2校合同ステージはあります。今回はコロナ禍でこうしてコンサートが開催できるだけでも貴重な機会です。

●合唱の持つ力
――合同ステージを行う上で、難しい点があったらお聞かせください。
本山:舞台裏を言うと、合同ステージと言っても、事前に楽譜を渡しておいて、当日リハーサルで合わせるだけなのです。まさに、それが音楽の面白いところだと思います。楽譜を仲介してそれぞれ準備して、当日ひとつのものにかたちづくられていくのです。
合唱の持っている力は日本ではあまり認識されていないのかもしれません。でも、例えばバルト三国は、エストニア、ラトビア、リトアニアの3つの国で構成されていて、それぞれの言語を持っています。歴史上、大国ロシアから占領されて独立した流れがあります。占領期はロシア語の使用を要請されていた中、それでも歌だけは自分たちの言葉で歌っていました。今でも大勢で集まって自分たちの言葉で歌うことがアイデンティティになっているんです。バルト三国では何人くらいの人が一緒に歌うと思います?
――国民ですよね…。2000人くらいですか?
本山:それが、6万人とか8万人とか集まって歌うんですよ。しかも大勢でハーモニーを作り出すんです。そんなイベントが3年に1回ある。彼らにとって一緒に歌うっていうことは大きな意味があるんですよね。六甲おろしもたくさんの人が歌うけどね。(笑)今回のコンサートのフィナーレは100人くらいの合唱になります。ただ、コロナの時代に100人一緒に歌うのは気を遣うところですね。

●仕掛けを価値にしていく
――前回のコンサートを体験したとき、学生による演奏であるにも関わらず、素晴らしくて本当にコンサートに行く意味があったと思わせてくれました。倍音の響きを体感しました。
本山:まさに一言で言えば「倍音」ですね。響き合って広がりを持つというね。どういうふうに彼らのいいところを出して、発信できるかということだと思います。前回は全員で「鉄腕アトム」を歌いました。十三の駅の壁にも手塚治虫の絵が描かれていて、阪急沿線に手塚治虫記念館があるし、手塚治虫が生まれたのは豊中市です。「鉄腕アトム」を歌うだけで、お客さんがいろんな想像をすると思います。音楽の面白いところはメッセージがひとつではないところです。今年は新型コロナウイルス感染症対策の影響があって制限があるのですが、来年以降も続けていくとしたら、このようにいろんな仕掛けをしていきたいなと思います。こうした仕掛けが価値になっていくと思っています。

●コンサートのプロデュースの視点で
――本山先生は、ドリームコーラスコンサートでは、指揮者であり、学長であり、演出・構成という複数の立場にいらっしゃいますが、どのような思いで関わられていらっしゃいますか?
本山:プロデューサーですね。3校一緒にやろうということを実現させることには気を遣います。みなさんに気持ちよく出演していただきたいと思っています。みなさんはミュージックコミュニケーション専攻ですから、これは本質的なことだと思いますが、素材になる音楽があって、これをどんなふうに誰に届けようということを考えますよね。ひとつだけでは影が薄い曲でも、何かと並べれば意味が出てくる。その組み合わせとか、それぞれの曲の価値を知っていることが、このようなコンサートの意義を作っていくと思います。
また、合唱は普通しっかり並んで歌うものだと思われているけれど、配置を変えてみると音の響きが全く変わります。例えばベートーヴェンの「第九」も、パート毎に並んで落ち着いて歌うのと、舞台上で男女各パートも混ざって配置して歌うのとではメッセージが変わってくるのです。違う声部が横から聴こえてくることによって、一人一人のテンションが上がって、それこそベルリンの壁が崩壊した時のような雰囲気が演奏会でできるかもしれない。そんなふうにステージ上で思いついて変えていくこともあります。ぜひ、ミュージックコミュニケーション専攻の学生たちにも、組み合わせによってお客さんへのアピールの仕方が変わってくるということを経験して欲しいと思います。

●今だからこそ体験したい生音
――最近、MOT!の公演でコンサートホールに行ったのですが、生音にしかない心臓に叩きつけられるような迫力を感じて、今だからこそそういう生音の体験がしたいなと思いました。今年のMOT!のテーマは「音と触れ合う」なのですが、合唱はまさにテーマとピッタリですね。
本山:「共振」という言葉があって、同じ空間にいるとその体験ができるんですよね。コロナ禍で配信のコンサートもあるけれど、やっぱりそこは違う。一緒に響き合ってもらうということが、お客さんにチケット代と交通費を払って来てもらう意義なのかもしれませんね。

――最後に、メッセージをお願いします。
本山:お客さんに本当に来てよかったと思ってもらえるコンサートにしたいです。そして、各学校の出演者のみなさんにとってもこの場所で演奏してメッセージを発信できたと実感してもらえたらうれしいです。また、今回、吹奏楽楽団にも出演していただくので彼らにも花を持たせたいし、裏方表方でサポートしてくださっているミュージックコミュニケーション専攻の学生にもこの演奏会を支えてよかったと思ってもらえたらと思います。ぜひリハーサル中でもいいので、どんな音が響いているのか聴いて欲しいです。そういう経験の積み重ねがみなさんの栄養になっていくと思います。

――ありがとうございました。

(編集:渡邊未帆)