羊は安らかに草を食み〜被爆ピアノとダンスが織りなす未来〜〔report〕

 2024年12月11日(水)に豊中市立文化芸術センター 小ホールで「羊は安らかに草を食み~被爆ピアノとダンスが織りなす未来~」が開催されました。出演者は新崎洋実さん(ピアノ)、北村成美さん(ダンス)です。「被爆ピアノ」は広島で被爆したピアノのことであり、7台の被爆ピアノを所持し、25年にわたり原爆の悲劇を伝える活動をされている矢川ピアノ工房の矢川光則さんのご協力のもと実現しました。

 今回使用されたピアノは唯一海外で演奏されたピアノで、アメリカ・マンハッタンでのコンサートで弾かれたものでした。その音色はどこか儚く、しかし、被爆ピアノという名に反して力強い響きでした。

 演目は以下の通りです。

M1      ⻄村朗≪ピアノのための「星の鏡」≫ 

M2      ショパン≪プレリュード No.13≫ 

M3      ドビュッシー≪プレリュード 第1集より 沈める寺≫

M4      沖縄⺠謡(中村透編曲)≪べーべーぬ草≫ 

M5      ベートーヴェン≪ピアノソナタ No.14「⽉光」≫ 

M6      坂本龍一≪andata≫

M7      バッハ(ペトリ編曲)≪⽺は安らかに草を⾷み≫ 

M8      バッハ(ペトリ編曲)≪⽺は安らかに草を⾷み≫

M9      ラウタヴァーラ≪組曲「イコン(聖像)」より第1曲 聖⺟の死≫ 

M10    ラフマニノフ≪プレリュードop.32-5 ト長調≫ 

M11    ラヴェル≪⽔の戯れ≫

M12    ラヴェル≪アルゼンチン舞曲 op.2より第1曲 年⽼いた⽜飼いの踊り≫ 

M13    マクダウェル≪森のスケッチ op.51より第1曲 野ばらに寄す≫ 

M14    ラヴェル≪「クープランの墓」より メヌエット≫ 

M15    サド ジョーンズ≪A child is bone≫ 

M16    坂本⿓⼀≪Aqua≫ 

M17    坂本⿓⼀≪Parolible≫ 

M18    シャリーノ≪Anamorfosi≫ 

 原爆の悲惨さや脅威だけでなく、喜びや生命の美しさが現れた曲で構成され、中でも印象に残ったのは水の表現でした。M.ラヴェル≪水の戯れ≫や、坂本龍一≪Aqua≫などの演目で、新崎さんのピアノと北村さんのパフォーマンスが重なりあって圧巻でした。当時、被爆者は極限に水を欲する状態でしたが、水を飲むと安心して緊張が解け、亡くなってしまうケースが多く見られました。私たちの世代はその当時の状況を自分たちの目で見たことはありませんが、実際にイメージが浮かんでくるようでした。

 公演のタイトルでもあるJ.S.バッハ作曲≪⽺は安らかに草を⾷み≫を聴きながら、この先の平和に思いを馳せました。終戦から80年。2024年は日本被団協がノーベル平和賞を受賞した年であり、広島・長崎で落とされた原爆の悲惨さは現代も私たちの記憶に刻まれています。

 いまも世界のどこかで戦争が続いています。平和のために過去を忘れず、1日1日を大切に生きていこうと心に誓いました。

(執筆者:田中照瑛)