「わからない」を愉しむ、現代音楽との出会い~北村朋幹ピアノ・リサイタル

滝の有名な大阪府箕面市。阪急箕面線の箕面駅を降り、徒歩10分ほどの箕面市立メイプルホールにて、先日、北村朋幹さんのピアノ・リサイタルが開催されました。

箕面市は、なんといっても箕面滝と箕面温泉が有名な街です。それと共に、ミスタードーナツ誕生の地としても有名で、今回の道中でも一緒にコンサートへ行った友人とともにフレンチクルーラーや限定メニューをいただきました。

北村さんは現在31歳の若手ピアニストで、数々の世界的なコンクールで高い評価を獲得しています。その特徴は、今回のリサイタル直前に行われたプレ・トークで音楽ライターの高坂はる香さんも仰っていましたが、「リサイタルのための作品よりも、自分自身の今演りたい作品」を重視していること。著名な作品ばかりを取り上げず、意欲的な作品に次々と挑戦する点がファンに強く支持されています。

今回取り上げられたのはエリック・サティ、武満徹、ジョン・ケージという3名の作曲家です。1時間を大幅に越えるケージの大作《プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード》が最大の山場で、彼に影響を与えたサティ、ケージと交友のあった武満の作品が前半に配されました。

現代音楽に馴染みのない私にとって、今回のコンサートは「わからない」の連続でした。しかし、この「わからない」が不思議な心地よさを生んでいたのです。

特に初めてのジョン・ケージは強烈でした。この作品は、グランドピアノにネジ、木などを置くことで不思議な音色を出す「プリペアド・ピアノ」が用いられます。楽譜を見ると、ケージがちゃんとひとつずつ指示を出しているそう。もちろん、このような楽器も初めてなので、その発音方法や共鳴のさせ方、どのようなモノを使って変化させているのか等、まるで3歳の子どもが新しいおもちゃで遊んでいる時のような新鮮さが脳内を埋め尽くしました。

今回は北村さんの演奏が目の前で見える座席で聴いていましたが、前半の堂々とした振る舞いから、後半のさまざまな音色を変幻自在に使い分ける、その様をまるで楽しんでいるかのような、一種のエキセントリックさも垣間見える振る舞いへの変化も興味深かったです。

私たちはどうしても「知っている曲」「馴染みのある曲」を聴きたくなるものです。吉田拓郎に《落陽》を求め、YOASOBIが《夜を駆ける》を歌うと喜ぶように。しかし、初めて聴く曲やまったく知らない作品を「ただ浴びてみる」という体験をするのも音楽鑑賞のひとつの楽しみ方ではないでしょうか。

今回の北村さんのピアノ・リサイタルを通して特に感じたのは近代から現代の作曲家たち、とりわけクラシック音楽に分類されない現代の作曲家は「わからないを愉しませる」「わからなくていいんだ」をひとつの“開き直り”として提示しているように見受けられたという点です。

だからこそ、不思議で、おもしろい。わからないの愉しみ方、咀嚼の方法がわかった気がします。

素敵な体験でした。

 

(執筆:坂岡優)